2010年04月30日

クリーンディーゼルかハイブリッドか!

クリーンディーゼルかハイブリッドか!二分する日本尻目に両者で攻めるダイムラー
    記事:日経BP社から引用しました。ためになる話?

二分する日本尻目に両者で攻めるダイムラー2010年04月27日モータージャーナリスト=清水 和夫 氏
日本でディーゼルが普及していない理由
 ダイムラーは、乗用車や商用車のブランドであるメルセデス・ベンツを環境に優しい高級ブランド(グリーン・ラグジュアリー・ブランド)にイメージチェンジするために、様々な技術で燃費削減に取り組んでいる。その甲斐あってメルセデスは欧州で市販する新車のメーカー平均燃費が確実に向上している。
 欧州では、2012年から世界で最も厳しい自動車CO2排出規制が段階的に導入される。2015年までに欧州で販売される新車の平均CO2排出量を120g/km以下(2006年の欧州の実績は160g/km)に下げる規制は、メルセデスのような高級車メーカーには非常に厳しい内容で、達成には様々な環境技術の投入が必要になる。
 欧州で普及しているクリーンディーゼルにも一層の磨きをかける必要がある。先般、アッパーミドルサルーンカーである「Eクラス」にクリーンディーゼル搭載車が追加され、日本国内でもエコカー減税・補助金の対象車として市販されるようになった。
 メルセデスは2006年にEクラスのディーゼル車「E320」を日本で発売した実績がある。しかし、さらに厳しい排ガス規制、いわゆる“ポスト新長期”が輸入車にも2010年9月1日から適用される。そこで今回、メルセデスは新型Eクラスとして、ポスト新長期規制をクリアできるディーゼル車「E350 BlueTEC」を日本市場に投入した。
 排ガス規制に関しては日本や米国の方が欧州より厳しい。そこでメルセデスは、日本と米国向けのディーゼル車を「BlueTEC(ブルーテック)」と呼んで、欧州向けとは差別化している。今回はメルセデスのディーゼル車、ブルーテックについてレポートしよう。
 ディーゼル車の方が燃費やCO2排出でガソリン車より優位であることは、日本でもそこそこ知られるようになった。欧州では新車の約50%がディーゼル車だ。しかし、国内自動車メーカーはディーゼルに消極的で、日本ではほとんど普及していない。
ない。
 欧州メーカーに大きな後れをとったものの、日本でもディーゼル車の動きは始まっている。日産自動車は2008年に、ポスト新長期規制をクリアする初の国産クリーンディーゼル搭載車「エクストレイル」を世に出した。今年の夏には「エクストレイル」に待望のオートマチック車が追加される。マツダも2012年までに先進的なクリーンディーゼル(SKY-D)の実用化を公言している。
 しかし、ハイブリッドで先行するトヨタ自動車とホンダは「燃費ならガソリンハイブリッドで勝負できる」として、ディーゼル車の国内市場投入はいまのところ予定していない。
 それどころか、技術系出身でトヨタ自動車副会長の岡本一雄氏は「ディーゼルは引き続き厳しくなる排ガス規制がコストアップの要因になるが、ハイブリッドはコストを下げながら規制対応が可能」と見て、ディーゼルには否定的だ。

二分される日本メーカー
 一方、日産自動車やマツダは、規制強化に伴うコスト上昇を招きやすい排ガスの“後処理技術”には頼らず、根本的に燃焼の改善で有害物質の生成を抑制するクリーン化技術の開発に取り組んでいる。
 ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと比べて圧縮比が高く、しかもガソリンでは難しいリーンバーン燃焼を得意とする。したがって、大きなトルクと燃費の良さでは最良の内燃機関と言える。半面、排気ガスの処理が長年の課題だった。しかし、米国でマスキー法(排ガス規制)施行から40年が経ち、ようやくディーゼルもガソリン車並のクリーン化にメドが立ったのである。
 ガソリンハイブリッドに傾くトヨタとホンダ。クリーンディーゼルで勝負を賭ける日産とマツダ。「ディーゼルVSハイブリッド」論争は日本の自動車業界を二分している。
 こうした日本メーカーの“二分状況”に対して、メルセデスは環境技術としてガソリンハイブリッドエンジンやダウンサイジングしたガソリン直噴ターボエンジン、そして今回のクリーンディーゼルエンジンと多様な環境をそろえている。
 まず、これまで日本市場に投入された環境対応車からその多様性を押さえておこう。メルセデスでは環境先進車に「BlueEFFICIENCY」というブランドネームをつけて差別化している。
 大型ボディのSクラスでは、V6ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車「S400ハイブリッド」を実用化している。「S400ハイブリッド」は2009年秋に日本でも販売が始まり、輸入車としては初めてエコカー減税と新車購入補助金の対象になった。
 SクラスよりもコンパクトなEクラスやCクラスでは、1.8リッターのガソリン直噴ターボを採用している。Eクラスの「E250CGIアバンギャルド」などがこのタイプにあたる。

Sクラスのガソリンハイブリッド車「S400ハイブリッド」。国内の減税措置で自動車取得税と自動車重量税の免税と自動車税は50%減税を合わせると金額にして70万6100円も支払い税額が少なくて済む。さらに新車購入補助金は10万円(13年目の古いクルマを廃車にすると25万円)優遇される

ブルーテック・ディーゼルの登場
 メルセデスの環境技術のトップランナーである「BlueEFFICIENCY」シリーズに、今回「E 350 BlueTEC(ブルーテック)」が加わった。日本では数少ないクリーンディーゼル乗用車である。電気自動車などと同じく、ベース車両とクリーンディーゼル車との差額の50%を補助する「クリーンディーゼル自動車導入費補助制度」の対象車に認定された。
 ディーゼルで問題となるのは主に浮遊粒子PM(パティキュレートマター)とNOx(窒素酸化物)だ。前者は高圧燃料噴射で細かく粉砕し燃えかすを残さないようにする。それでも残った燃えかすは後処理で除去することになる。そのフィルターをDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)と呼ぶ。今回のクリーンディーゼルは、DPFの追加によりガソリン車よりもPMは少ないと言われるほどになっている。
 厄介なのはむしろNOxだ。もともと空気中には窒素が78%も含まれている。その空気を吸入して燃焼させるエンジンはNOxが発生しやすい。その量はガソリンエンジンより、リーンバーン(希薄燃焼)であるディーゼルのほうが多い。そこでNOxの発生を燃焼の段階で抑える工夫が施される。その1つの手法は、圧縮比を下げることで燃焼温度を下げて、NOxの生成を抑制するものだ。
 しかも、実用的な燃焼効率を可能とする理想的な圧縮比に近づける。メルセデスは15.5前後が理想的な圧縮比だと考えている。現在の圧縮比は16強なので理想に近づいているわけだ。
 もう1つはEGR(排気ガス再循環)で、排気ガス(CO2)をシリンダーに還流する技術だ。酸素濃度を精密に制御することでNOxは抑制できる。それでも完全には取り切れないため、ブルーテック・ディーゼルでは尿素SCR(選択触媒還元)を採用した排ガス後処理システムを使ってNOxを除去する技術も追加した。

Eクラスのクリーンディーゼル車「E350ブルーテック」。クリーンディーゼル自動車導入費補助制度により最大40万2000円の補助金を受けられる。自動車取得税や自動車重量税などのエコカー減税と併せると、セダンで65万2000円、ワゴンで66万7000円の優遇を受けることができる


ディーゼル普及は合理的
 燃費に優れるディーゼルエンジンと排ガスのクリーン化に優れるガソリンエンジン。はたしてどちらがサスティナブル(持続可能)なのだろうか。その答えを燃料の視点で考えてみると面白い。
 ガソリンとディーゼル用の軽油は最終的な燃料の形態としては別物であるが、実は、原油からガソリンをつくろうとすると、重油や軽油といった石油製品も必ず生産される。ガソリンだけ、あるいは軽油だけをつくることはできない。つまり、自動車による石油の効率消費を考えれば、ガソリンエンジンとディーゼルの両方がバランス良く存在していた方がいい。これは意外に知られていない事実ではないか。
 例えば、一頭の牛からはヒレ肉も脂肉もとれるが、すべての肉を消費しないともったいない。同じ理屈で石油から精製される様々な燃料を無駄なく使うことが資源の有効活用の観点から重要になる。
 加えて、生産時のCO2排出に注目すると、ガソリンよりも軽油の方がCO2排出は少なくて済む。ディーゼルの比率が少ない日本では、こうした点から見てもディーゼル車の普及には合理性がある。
 同じ石油を原料としながら性質の異なるガソリンと軽油は、内燃エンジンにどのような特徴をもたらしたのだろうか。この燃料の性質の違いがガソリン車とディーゼル車を差別化しているのである。
 簡単に説明すると空気と混ざりやすいが、燃えにくいガソリンは点火プラグという火種がないと爆発しない。


欧州燃費規制の試練
 しかし、燃えカスが発生しにくいので排ガスはきれいだ。一方、ノッキングしにくい燃料である軽油を使うディーゼルは、圧縮比を高くでき、しかも燃えやすい性質を持っているので圧縮して高温になった空気に燃料噴射すると爆発する。このとき、点火プラグは必要ない。ガソリンよりも大きなトルクが得られるが、燃えカスが残りやすく、薄く燃やすので窒素酸化物(NOx)が発生しやすい。それを技術革新でガソリン車並みに排ガスをきれいにしたのがクリーンディーゼルだ。
 ダイムラーにとってディーゼルは重要な鍵を握る技術であるが、ガソリンエンジンやハイブリッド、あるいはプラグインハイブリッドや電気自動車も重要な技術であると位置づけている。
 欧州のメーカー平均燃費規制(案)では、2015年までに120g/km以下、2020年までに95g/km以下という目標の設定が有力である。ダイムラーが得意とする車重の大きなクルマに対しては一定の配慮はあるものの、それでも相当な覚悟で取り組まないと実現できないレベルだ。それゆえ、CO2削減の技術革新とコスト競争は日本メーカー以上に真剣だ。ましてダイムラーにはガソリン自動車を生みだした先駆けとしての自負がある。同社が大きな正念場を迎えるのは必至なのである。
 ハイブリッドやディーゼルだけではないが、環境技術の開発には多大なコストがかかる。2010年4月7日にルノー・日産自動車とダイムラーが、環境技術や小型車のプラットフォーム共通化などで提携を発表したが、こうしたメーカー間の提携はこの先さらに進むだろう。90年代の終わりにも合従連衡が行われたが、最近の提携はM&A(合併・買収)よりも本気で環境技術をシェアするための提携が目立つ。とくにエンジンやバッテリーなどのパワープラントを共通化する例が多い。
 ダイムラーは大きな高級車を得意とするメーカーなだけに、燃費削減には大胆な技術の革新や導入が不可欠だ。その意味では環境技術のコストはどこのメーカーよりも大きいはずだ。ルノー・日産との提携は1年前から進められていたのである。



ディーゼル元年
 さて、日本におけるポスト新長期にも対応したメルセデスのクリーンディーゼル車「E350ブルーテック」のインプレッションはどうか。
 このブルーテックは尿素水でNOxを除去する方式を採用している。17L容器の尿素水は1.5~2万kmの走行で交換することになるが、そのため「E350CD」でスペアタイヤが格納されていたスペースに尿素水容器が配置され、スペアタイヤをなくした代わりにランフラット(パンクしても80Km以上走れるタイヤ)を履く構成になっている。
 ディーゼルエンジン自体は前モデルと同じものだが、新型Eクラスのボディに搭載されているので静粛性は一段と向上している。ディーゼル特有の加速力はガソリンターボ車を上回るもので、トルクフルな感じが気持ちよい。
 新型ディーゼルはアイドルストップ機構こそ備わっていないが、交差点などで停止すると自動的に「Dレンジ」から「Nレンジ」に切り替わり、トルクコンバーターを回すエンジン負荷が減らして燃費を高めるようになっている。新システムは100km走行で0.2Lの燃費が削減できる。ブレーキから足を離すと0.2秒後にDレンジに戻るので、発進時にもたつくことはない。空気抵抗が少ない新型Eクラスにディーゼルが搭載されたので、高速巡航の燃費はすばらしく、リッターあたり13~14kmの走行が可能だ。
 数年後には国内にもディーゼルハイブリッドが導入されるかもしれないが、今回、メルセデスのような高級車がリッター20kmの燃費で高速走行することも決して夢ではないという感触を得た。
 日本市場ではおそらく2010年がディーゼル元年となるだろう。個人的な願いも含まれるが、本気でCO2を削減するなら、電気自動車の前にクリーンディーゼル乗用車の普及が不可欠だと考えている。
 ディーゼルはガソリンエンジンに比べてコストがかかるため、いまのところ高価格帯のクルマが中心だが、インドではタタ自動車や、スズキの子会社であるマルチ・スズキ・インディアが低価格ディーゼル車を開発している。低コストの排ガス処理技術が確立されれば、安価なクルマでもディーゼルの可能性がでてくるだろう。
プロフィール
清水 和夫(しみず・かずお)
能力はクルマの正確な評価にも生かされ、シャープな論評は支持者が多い。
ジャーナリストとしては国内だけでなく、海外にも活動を広げ、自動車の運動理論、安全、環境、ITSのみならず、自動車国際産業論にも精通し、多方面のメディアで執筆活動を行っている。著書に『ITSの思想』(日本放送出版協会)。
ボランティア活動としては、CRS普及活動を行っている「子供の安全ネットワーク・ジャパン」、「妊婦のシートベルト着用を推進する会」などの会をサポートしている。近年は、救急法(ファーストエイド)・AED(自動体外式除細動器)の普及活動も行っている。

主な連載誌
『NAVI』、『ENGINE』
主な著書
 『ITSの思想』(日本放送出版協会)、『ディーゼルこそが、地球を救う-なぜ、環境先進国はディーゼルを選択するのか?』(ダイヤモンド社)、『クルマ安全学のすすめ』(日本放送出版協会)、『燃料電池とは何か-水素エネルギーが拓く新世紀』(日本放送出版協会)などがある。
著者のブログ
清水和夫の【みんカラ】ブログ「頑固一徹カズです!」
清水和夫の動画サイト「Start Your Engines」


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Posted by T.M建築設計室 at 12:32 │私ごと

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